2018年09月の記事 - ひこばえ
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日向 亮司

Author:日向 亮司
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ひこばえ


2018年09月の記事

松虫草

山頂は雨をはらみて松虫草



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その日はバスで長野県茅野市にある車山高原に出掛けた。ロッヂのある南牧村から八ヶ岳連峰を越えてその反対側に向かうのである。なぜ、わざわざそんなに遠い所まで行くのだろう?他に行くところがないのだろうか?朝だというのにバスの中で居眠りをしてしまった位なので相当な距離を移動している。夜の星空観察までの時間稼ぎだろうか?
とはいえ楽しみもある。高山植物である。いろいろな花が咲いている。特にニッコウキスゲや松虫草などが見頃だパンフレットに書かれている。<車山高原8月の代名詞「マツムシソウ」>などと書かれていて群生している写真が載っていた。
ガイドさんの声で目が覚めた。少し寝惚けている。目の前にリフト乗り場があり、バスを降りてすぐに乗り込むことになった。
私「よし、松虫草の写真を撮るぞ。楽しみ~」
妻「何言ってるの。松虫草は咲いてないってさっきガイドさんが話してたでしょ。聞いてなかったの?」
私「聞いてない。寝てた。どうして咲いてないの?今が見頃だと書いてたけど……」
妻「シカがみんな食べてしまったそうよ」
私「えっ~」
妻「ニッコウキスゲもないって言ってたよ」
私「それもシカ?」
妻「そう」
私「えっ~、シカの馬鹿野郎だなぁ、馬には悪いけど……」
リフトを2つ乗り継いだ。シカが食べたと言っても少し位は残っているだろう。万一なかったとしても他の高山植物はあるはず。まずは頂上まで登ることにした。約20分掛かって到着した。リフトを降りてから頂上まで少し歩いた。空は曇っていて時折雨がぱらついて来る。降るというほどでもないが、いつ降り出しても不思議はない天気である。頂上には車山神社という小さな祠と気象レーダー観測所があり、360度の眺望を楽しむ人がたくさんいた。蓼科山、八ヶ岳、南アルプス、中央アルプス、北アルプスの山々が見渡せる。
私はといえば高山植物を探してウロウロしていた。いろいろな花が咲いている。あまりに夢中になり妻とははぐれてしまった。はぐれたとは言っても狭い場所である。その辺りにいるに違いない。それよりもまずは花である。これぞという花がないかと探して目を皿にして見て回った。そして見つけた。
「あった!」
松虫草である(写真)。シカに食べられたと言っても全滅ということはない。どこかにあるはずと思っていたが、探した甲斐があったというものである。もっとあるかも知れないと思い、尾根伝いに続く道を進み始めた。「時の経つのも忘れて」とはその時のことである。いくつもの松虫草を見つけて写真に収め、随分と先まで行ってから気付いた。
「あれっ、集合時間は何時だったっけ?」
                                 (平成30年作)




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青嶺

手庇に青嶺ときをり双眼鏡



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写真は散策中に立ち寄った美鈴池で写したものである。ガイドさんが八ヶ岳について説明してくれた。
「ここから見える3つの山は左が赤岳、中央が横岳、右が硫黄岳と言います。最も高いのが赤岳で2,899メートルあり、八ヶ岳の主峰となります。八ヶ岳と言いましても山が8つあるという訳ではありません。山梨県と長野県に跨る山々の総称です。昔から「八百万」とか言うように多くの山々が連なっているという意味で「八」の字が使われたようです。深田久弥は『日本百名山』という本の中で敢えて8つ挙げるとすればということで、西岳、編笠岳、権現岳、赤岳、阿弥陀岳、横岳、硫黄岳、峰ノ松目を選んでいますが、今では最後に書かれた峰ノ松目ではなく天狗岳を挙げるのが一般的になっています。ロッヂでお配りしましたパンフレットにも天狗岳が書かれています」
それからしばらくは赤岳に登頂した時の話が続いた。
「昔はそれほど登山客が多かった訳ではありませんが、今では休日ともなると物凄い数の人達が訪れます。双眼鏡で見ると頂上に人がいるのが分かります。日帰りで登って来られるところがいいのかも知れません。しかし簡単な山という訳ではありません。私の友人がそこで滑落して亡くなっています」
「へぇー」
一同、驚きの声を上げ聞き入ったことは勿論である。
「深田久弥が百名山を決めた基準があります。何だと思いますか?もちろん自分が実際に登ったということ、1,500メートル以上の高さがあることなどが大前提です。まず第一は山の品格です。人間に人格があるように、山にも品格が求められます。誰が見ても立派な山だと納得するような品格を持っていることを第一の基準としました。こう見ますと今日お集まりの皆さんはこの第一の基準は充分に満たしているようです(笑)」
「(大笑)」
「第二は歴史です。昔から人間との関わりが深く、山頂に祠が祀られているような山を選んでいます。歴史を有し人間から崇拝されてきたような山。まさしくこの条件も皆さんにはピッタリ当て嵌まるようです(笑)」
「(笑)」
「そして最後の第三の条件は個性的な山であることです。芸術作品と同じように他にはない顕著な個性を持っていることを条件に選んでいます。まさにここにお揃いの皆様ならこの条件もクリアしていることでしょう。百名山に選ばれても不思議はない方々とこうしてご一緒することが出来まして大変光栄に思っております(笑)」
                                 (平成30年作)




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夏蝶

近づけば夏蝶ひそと息づけり



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翌朝は嘘のように晴れた。6時半にロビーに集合してロッヂの周辺を散策するという。専門のガイドが案内してくれるというのでとても楽しみにして参加した。総勢30名位が集まった。まずは双眼鏡の貸し出しである。遅くに来た人には行き渡らなかったほどである。ピントの合わせ方を教わり、初めて木の天辺の小鳥を捉えた。
「ひゃー、こんなに良く見えるものだったんだ。使い方、知らなかった」
コガラ、ヒガラ、シジュウカラの違いを教わり、「今、鳴いているのがシジュウカラです」などと教えてもらった。何年ぶりかの吟行である。手帳にたくさんメモすることになった。
少し進むと道端に黄色い花がたくさん咲いていた。
「これはマルバダケブキという花です。この辺り一帯に群生しています。群生しているのはシカの食害に遭わないからです。(近くにある木を指差して)あの木の樹皮が剥がされているのが分かると思います。シカが食べたあとです。シカの生態も徐々に変わってきて自然に与える影響は少なくありません。食べられないで繁殖するマルバダケブキにとってはいいことかも知れませんが、どんどん食べられてしまう植物の中には絶滅の危機に瀕しているものもあります。シカの駆除はしておりません。この辺りには別荘が多いのですが、シカに入られないように柵をして庭の花を守っているだけです」
写真はガイドさんが「イケマ」という植物を説明しているところである。道の脇に支え木がされて人の手で大切にされている植物があった(写真左)。
「皆さんはアサギマダラという蝶のことをご存じでしょうか。とても長い距離を移動する『渡り』で有名です。大きな蝶で羽の模様がとても鮮やかです。夏に日本で産まれたアサギマダラが秋に南西諸島や台湾などで発見されたりして、テレビでも何度か紹介されています。この植物はイケマといいまして、アサギマダラがその葉の裏に産卵をしたり、幼虫が葉を食べたりします。今ここではそのアサギマダラを呼ぼうと準備を進めているところです。地面を這うイケマをこうして高い場所に持ち上げてアサギマダラの目に付きやすいようにしています。この地道な努力がアサギマダラに伝わることを願っているのですが……」
                                 (平成30年作)




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色鳥

色鳥や止まぬアンコールの拍手



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ロッヂに到着した時はそれほどでもなかった天気が、音楽堂に向かおうとした時には遠くで雷が鳴る天気に変わっていた。雲はどんよりと厚く、雨がポツリポツリと落ち始めていた。ロッヂからバスに乗り込み5分で会場に到着した。「八ヶ岳高原音楽堂」(写真)である。開演30分前だったが大勢の客で溢れていた。ウェルカムドリンクのワインを片手に外を眺めていたが、雨脚はどんどん激しくなっていった。
<あんなに良かった天気が急にこうも変わるものだろうか>
雷雨注意報も出されていたらしい。もちろん星空観察どころではない。天気予報の降水確率70%は当たっていた。
コンサートは小野リサさんのボサノバである。ピアノとサックスを両側に従えて前半50分は日本の歌を歌っていた。20分間の休憩を挟み後半はボサノバである。ラテン語で巧みに歌いこなすのを心地よく聴いていた。2時間のコンサートが終わり、舞台袖に下がった彼女にアンコールの拍手が送られた。再び登場した彼女が歌ったのが「いのちの歌」という曲である。初めて聴いたが心に沁みた。旅行中、ホテルの中でもバスの中でも何度もスマホで聴くことになった歌である。歌詞を紹介しておこう。

「いのちの歌」

生きてゆくことの意味 問いかけるそのたびに
胸をよぎる 愛しい人々のあたたかさ
この星の片隅で めぐり会えた奇跡は
どんな宝石よりも たいせつな宝物
泣きたい日もある 絶望に嘆く日も
そんな時そばにいて 寄り添うあなたの影
二人で歌えば 懐かしくよみがえる
ふるさとの夕焼けの 優しいあのぬくもり

本当にだいじなものは 隠れて見えない
ささやかすぎる日々の中に かけがえない喜びがある

いつかは誰でも この星にさよならを
する時が来るけれど 命は継がれてゆく
生れてきたこと 育ててもらえたこと
出会ったこと 笑ったこと
そのすべてにありがとう
この命にありがとう
                                 (平成30年作)




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桐一葉

桐一葉かの英傑の死を悼む



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今回は旅に文庫本を持参した。いつもは歳時記だけにして本を読むことはないのだが、たまたま読みかけの本が面白すぎたので止められなくなったのだ。吉川英治著「三国志」全8巻。その7巻目と8巻目を持参した。関羽が死ぬところである。「樊城の戦い」を制し、勢いを得た関羽だったが、その後の魏軍と呉軍の密約や仲間の裏切りなどにより城を出て追撃され捕らわれの身となり斬首されるのである。バスの中でビールを飲みながらも孤立無援となった関羽を思い、ひまわり畑などに寄ってソフトクリームなどを食べながらも天下の英傑の死を嘆いていた。
宿には3時半に到着した。「八ヶ岳高原ロッヂ」という(写真)。ひっそりと森の中に佇み、周囲には何もない。旅のテーマが「夏の八ヶ岳高原で音楽と自然美を楽しむ」である。部屋は普通の洋室であるが、森に向いたバスルームが開放的である。小野リサさんのコンサートが5時半開演なので、それまでの時間をシャワーを浴びてベッドに横になり、嘆く劉邦の章を読みながら過ごしていた。
関羽の死を知る前の明け方の劉備玄徳である。
「夢の中には一痕の月があった。墨のごとき冷風は絶え間なく雲を戦がせ、その雲の声とも風の声ともつかない叫喚がやむと、寝所の帳のすそに、誰か平伏している者がある。愕然、夢の中で玄徳はその者へ呶鳴った。
(や。わが義弟ではないか。関羽、関羽。こんな夜更けに、そも、何しに来たか)
まさしくそれは関羽の影に違いないのだが、いつもの関羽に似もやらず、容易に面もあげず、ただ凝然と涙を垂れている容子。そして一言。
(桃園の縁もはかなき過去と成り果てました。家兄、はやく兵のご用意あって、義弟のうらみをそそぎ賜われ……)
と、いったかと思うと、黙然一礼して、水の如く、帳の外へ出て行くのだった。
(待て、待て。義弟)
玄徳は夢中に叫びながらその影を追って、前殿の廻廊まで走り出したが、そのとき宙天一痕の月が鞠のように飛んで西山へ落ちたと見えたので、あっと面をおおいながらそれへ倒れてしまった」(第7巻「成都鳴動」より)

八ヶ岳の高原に来て三国志もないものだが、得てして「あの時、あそこで、あの本を読んでいたなぁ」と記憶に残ったりするものである。
                                 (平成30年作)




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山に星見んとて秋の歳時記を



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2ヶ月ほど前のことである。
妻「星空観察のツアーがあるわよ」
私「どこどこ?」
妻「八ヶ岳高原。南に富士山、北に八ヶ岳、西に南アルプス連峰を望むだって」
私「いいねぇ。いつ?」
妻「ちょうど、夏休みの最中だよ」
私「いいねぇ。満天の星空かぁ。流星なんか見られたら最高だなぁ。よし行こう!」
日曜日の朝の出発である。詳しいことは聞いていない。聞いていたかも知れないが記憶がない。星のことや高山植物のことについては事前にあれこれと調べていたが、どこに泊まり、どうやって行くのかは覚えていない。
私「何ていうホテルだっけ?」
妻「八ヶ岳高原ロッヂ。小野リサさんのコンサートもあるわよ。楽しみ!」
私「新幹線で行くのか?」
妻「何言ってるの。バスに決まってるでしょ」
私「そうなのか。新幹線で行って小海線に乗り換えるのかと思った。『若葉風ひとゆれで発つ小海線』という句があって一度は乗ってみたいと思っていたので……」
妻「……」
私「天気は大丈夫だろうか。雲が懸かってちゃ、星どころじゃないからな。今ちょうどペルセウス座流星群というのが見頃だって今日の新聞に書いてあったよ。1時間に40個も降ってくるんだって。楽しみ!」
妻「わっ、降水確率70%だって。雷雨注意報も出てる」
私「えっ、まずいじゃん。何のために行くのか分からなくなっちゃうよ。ま、今降っていても明日、明後日が晴れていればいいんだから、きっと大丈夫だと思うけど。山の天気は変わりやすいというから期待しよう」

東京駅を出たところで豪華なバスが待っていた(写真手前)。21人乗りだという。総革張りのリクライニングで座った途端に眠くなるような感じがした。数名が乗り込んで10時ちょうどに出発し、新宿で残りの人達を乗せた。総勢19名。夫婦連れが多いが、中には年配の女性が一人で参加というのも3人ほどいた。すぐに中央道に乗ったが道のりは長い。勝手ながら駅で買い込んできた缶ビールを開けさせてもらったが、つまみに選んだ「ジャッキーカルパス」の臭いが周囲に漂ったようである。妻からは「早く食べちゃってよ」と文句を言われる始末。
                                 (平成30年作)




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秋の風

効くといふ毛生え薬や秋の風



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髪の毛が薄くなったのは20代後半からである。30代の頃の写真ともなれば相当に薄くなっていることが分かる。
しかし不思議とそれを気に病むといったことはなかったと思う。カツラや白髪染めなど一度として考えたこともない。不自然なカツラの人を見たり、生え際の色が変わっている人を見ると「自然がいいのに……」と思うばかりである。
そんな私に「毛生え薬」を勧めて来た人がいた。「イラナイ、イラナイ。今更、そんな面倒なことはしたくない」と笑って応えていたが、あまりの熱心さにとうとう押し切られてしまった。勧めてくれたのはビワ温灸のY先生である。彼女のことは以前このブログにも書いている(平成30年3月9日「春二番」)。現在71才、ビワ温灸のかたわら、自宅でスナックを始めようと計画しているバイタリティ旺盛な女性である。
月に一度くらいのペースで一緒に飲むのだが、いつも隣に座ってくれる。妙に気が合っているせいか、言いたい放題にいろいろと言ってくる。口は相当に悪い(笑)。
Y先生「ハゲで白髪じゃ、しょうがないよ。どうにか、すれ~」
私「いいんだよ。自然が一番だから、ほっといてくれよ」
「いいなんてことはない。いいのがあるんだから、素直にいうことを聞け~」
「そんなにいい薬なら、みんな使ってるだろうに(笑)」
「使ってるよ。私が紹介した人はみんな使ってる」
「そのみんながよく分からない。世界が狭すぎるよ(笑)」
「私を信じろ。いつも顔を合わせていてインチキなものを勧める訳ないだろ。よく考えろ」
「分かった、分かった、今度行った時に買うよ」
「ほんと!よし、待ってるからね。いつ来る?ほんとにあんたの為なんだから(笑)」
こんな感じである。

9月5日、訪ねるとさっそく薬を取り出してきて使い方の説明をしてくれた。
「分かった、分かった。1日2回、スプレーで吹きかけてマッサージするんだね。オッケー、オッケー。いくら払えばいいの?」
「5400円」
「400円は消費税か。しっかりしてるなぁ。少しは負けてくれてんの?」
「バカヤロウ。消費税は国でやってんだから負ける訳にはいかないんだよ」
「違うよ。本体価格の方だよ。相当に割り引いてくれてるんだろうね(笑)」
「何言ってるの!人生の悩みを解決してやろうって言っているのに、何を細かいこと言ってるの」
「だから、悩んでないって言ってるのに……(笑)」
その日、帰ってさっそく使ってみた。結果は1ヵ月位してからまたこのブログで報告することになるだろう(笑)。
                                 (平成30年作)




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夏終る

木を削り釘を打ち込み夏終る



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位置を確定したあとキリで穴を開け、インパクトドライバーで長い釘を打ち込み完成させた。最後にもう一度全体にヤスリを掛けてくれて終了するまでにおよそ40分掛かった。「よし、良く出来た。よく頑張った。これは世界に一つしかない椅子だ。自分で作ったんだから大切に使うように。いいか」みやちゃんが「はい」と小さな声で返事をしていた。カズ君は応えていない。それにしてもいい指導だと思った。しっかりと説明し、安全も確保し、時間内で完成させている。いいものを見せてもらったような気がした。感動したのは私の方である。それぞれの椅子をビニール袋に入れてもらい持ちやすい形にしてくれた。その時、小さな事件が起きているのだがそのことに誰も気付いてはいない。
高速道を飛ばして帰宅したのが5時である。夕飯の時、カズ君はその椅子を使っている。
「ちゃんと零さないで食べなさい。ほら、零した。椅子に付いちゃったよ」

その日の夜、メールが入った。
娘「いす、かずまとみやのが逆になってる!」
妻「かずま、もう汚しちゃってるよ」
娘「えー!」
妻「なんか、シミを付けていた。焼きそばのソースが付いている」
娘「落ちる?」
妻「大丈夫。落ちた。杉の木は汚れに強いことが分かった」
娘「よかった。ありがとう。明日、取りに行くね」

このメールを私は翌日見た。世界に一つだからみやちゃんにとっては大切なものである。カズ君にとってはそうでもないらしい(笑)。位置決めの鉛筆の線が自分で描いたものとは違うので気付いたようで、作業が終わってビニール袋に入れてくれた時に間違えたようである。私が写したその時の写真を送ってグループラインにメールした。
私「これからマイスターと呼ぼう!」
娘「マイスター?」
娘「何それ?」
私「工場で働く人のうち、資格を持った親方をドイツではマイスターと呼びます」
娘「親方!」
妻「昨日、頑張ったからねぇ。かっこいい!」
娘「うちの親方はこれからお昼を食べて、お友達の家に遊びに行ってくるそうです(笑)」
みや親方はその日椅子を抱いて寝たそうである。
                                 (平成30年作)




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汗拭ふごとに働く手となりぬ



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翌日は宿を出て、宮が瀬ダムの近くにある「あいかわ公園」に寄ることになった。広大な敷地にアスレチックやプールがあり無料開放されている。子供たちには最高の遊び場である。噴水、アスレチック、トランポリンと楽しみ、昼食のあと「工芸工房村」という施設に入った。体験コーナーである。なっちゃんと三女のさわちゃんは焼き物の色付けをするという。みやちゃんとカズ君は木工の椅子作りをやりたいという。受付を済ませると係の女性が奥の工作場へと連れて行ってくれた。色付けの二人は手前の作業場である。担当の女性が現れて「こんにちは」とやさしく迎えてくれた。椅子作りの二人はさらに奥に進む。男性が待っていた。「〇〇さん、この二人が椅子をやります。お願いします」と引き渡した。「はいはい、椅子ね」見るからに無愛想である。「はい、まずそこにある椅子のうちから一つずつ好きなのを選んで」と言っている。言われたみやちゃんとカズ君は一瞬何のことか分からない。土間に並べられた材料の中から好きなものを選ぶらしい。椅子はほとんど完成形になっている。私が説明して選ばせた。「はい、それを持ってこっちへ来て」男性はさらに奥へと進み外へ出た。屋外で行なうらしい。作業台が用意されていた。選んだ椅子を作業台の上に載せ、まずは二人に前掛けとゴーグルを着せた。
「はい、これから椅子を組み立てていきます。この木材は杉という木です。この向かいの山から伐って来ました。これからこの木にヤスリを掛けます。そしてそれが終わったら長い釘を打ち込んでいきます」
<大丈夫かなぁ?>と見ていた。子供嫌いのように見えたからである。言葉遣いに優しさが感じられない。最初にグラインダーを取り出した。ヤスリ掛けである。スイッチを入れると小刻みに振動し木の表面を滑らかにする機械である。「はい、まずしっかり右手で持って。スイッチを入れるよ。(ビー)」みやちゃんから始まった。手を添えて感触を覚えさせようとしている。「はい、これを木の表面に当てるよ」(グーン)「はい、そう、その時、左手は木をしっかりと押さえる。そう」次はカズ君である。「スイッチを入れるよ。(ビー)はい、しっかり持って。木の表面に当てる。はい、しっかり力を入れて押す。朝ご飯、食べて来たか。もっと力を入れる。そう、その調子」情け容赦ない。5才児と思っていないようである。確かにカズ君は年の割には大きい。しかし所詮5才である。「はい、次は木を横にして同じようにして掛ける。力を入れる。しっかりと押さえる、はい、いいよ」二人に笑いはない。真剣である。いつもは悪戯好きで、「もうやりたくない」と言い出しそうな二人であるが文句一つ言わない。いい指導振りだと思った。
全体にヤスリ掛けをしたところで男性が仕上げをしてくれた。次は釘打ちである。まずは位置決めである。位置を合わせて鉛筆でなぞるという作業である。みやちゃんは完璧にやっている。しかしカズ君はそうはいかない。「どこに線を引いてるの。ちゃんと見てるか。おじさんの言った通りにやる。もう一度」普通は泣き出すところである。しかし、しっかりとやり直して最後までやり通した。「よし、いいぞ。上手くいった。次はこれをしっかりと両手で持って、ひっくり返す」
                                 (平成30年作)




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行く夏

ゆく夏の涙をそつと拭ひけり



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泣いているタカコちゃんを余所目になっちゃんは私の手紙を読み始めた。さすがに本好きのことだけはある。読み方が上手い。澱みがない。それを全員が静かに聞いている。

『なっちゃん、誕生日おめでとう!日記帳をプレゼントします。一日一日が瞬く間に過ぎて行きます。
振り返ると「ああ、今年も終わってしまったなぁ」ということになってしまいます。
大切なはずの一日一日が記憶にも残らないなんて、なんて淋しいことでしょう。
一生に一度しか来ない今日のことを忘れてしまうなんて悲しいことですよね。
日記はその日のことを記憶してくれます。
今日のこの誕生日会のこともちょっと書いておくだけで忘れないようになります。
「ああ、あの日あの時、あの温泉で私の12才の誕生日をみんなでお祝いしてくれたんだ」
小さなことにも目を留めて心に残ったことを書いてみると、繰り返し来る同じような一日にも変化が感じられて楽しくなるものです。
毎日でなくてもいいのです。短くても構いません。気の向いた時にその日のことを少しずつ書き留めてみてください。
きっと一日一日が大切な日になると共に、日記の素晴らしさを知ることになるでしょう。
平成30年8月1日 おーちゃんより』

なっちゃんが読み終えたあと、日記帳と一緒に入れておいた「小学生日記」のことを全員に説明した。
私「この本は初めて日記を書くことになるなっちゃんのために、書き方の参考になるものがないかとあれこれ探していた時にたまたま見つけたものです。モデルの華恵さんという人が小学6年生の時に書いた作文が中心になっています。小学生が書いた文章なので大したことはないだろうと軽い気持ちで読み始めたのですが、とても立派な作品でした。日常、何でもないようなことを子供の目線でしっかりと捉えて書いています。おそらく、なっちゃんにもこれと同じような作品が書けると思います。是非、読んでもらって日記帳の中にこれと同じような文章を書いていってもらいたいと思っています。
それにしても驚いたのがタカコちゃんの涙でした。本当に驚かされました。まさに感動です。心がピュアな人であることが分かりました。出来れば私の手紙を読んでいる時に泣いてくれれば良かったのですが、読む前に泣いていましたので手紙の内容とは関係がなかったという所が少々残念といえば残念ではありますが……(笑)」
                                 (平成30年作)




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夏の色

プレゼント決めてリボンは夏色に



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誕生日会にはナオ君とお母さん、そしてナオ君の妹のタカコちゃんも参加している。美人である。なっちゃん達の叔母さんに当る。
食事も進んだところでいよいよプレゼント渡しの時間となった。司会役はなっちゃんの妹小学4年生のみやちゃんが担当する。これが実に上手い。こういう場をいつもキチンと仕切ってくれる。
みやちゃん「これから誕生日会を始めます。司会を担当しますみやです。副司会のさわとカズマです。よろしくお願いします。カズ(怒)、ちゃんと整列しなさい」
結構、気が強い(笑)。
みやちゃん「それではプレゼントを渡します。なっちゃん、前に出てください。誰から渡しますか?タカコちゃんでいいですか?はい、それではタカコちゃんから渡してください。どうぞ」
タカコちゃんがなっちゃんにプレゼントを渡した。そして他の孫たちにもプレゼントを用意しているという。みやちゃん他、大喜びである。みやちゃんも司会どころではなくなった。予想していなかった自分宛てのプレゼントがあったのだから中を確認するのに夢中である。
みやちゃん「少し休憩します。ちょっと待っていてください」
順番にプレゼントが手渡されていった。みんな一様に考えている。愛情一杯のものばかりである。いよいよ私の番が来た。小さい物だが意外と重い。キンドレが渡された。
なっちゃん「えっ、えっ、何、何、えっ、スゴイ!」
大喜びである。
私「本が大好きななっちゃんには最も相応しいプレゼントと思いまして選びました。良い本をたくさん読んでもらえると嬉しいです。それからもう一つ、別のプレゼントがあります。実はキンドレを選んだ時、まだ早いのではという意見もあり、一旦諦めることになりました。その諦めた私が別に選んだ品物がこれです」
「何、何、何?」
とはなっちゃん以外の人の声である。全員、前に出て来て覗いている。真っ赤な包装紙を開けて出てきた日記帳。
なっちゃん「あっ、日記帳だ。鍵が付いている。どうやって開けるのだろう」
私「なっちゃんももう日記を付けてもいい年頃になりました。中に私からの手紙が入っています」
なっちゃん「手紙?あっ、これだ。みんなの前で読んでいいの?」
私「もちろん、いいよ」
その時である。信じられないことが起こった。タカコちゃんが泣いているのである。涙をポロポロと流している。
タカコちゃん「凄すぎるよぉ……」
(注)写真は今回なっちゃんに送ったプレゼントである。百均で買ってきた包装紙にリボンを掛けた。所要時間30分。もちろんリボンも私の手作りである(笑)。
                                 (平成30年作)




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串鮎の腹のあたりを零しけり



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6時から夕食である。いやに早い。誕生日会に時間が掛かるだろうと早目にお願いしたという。会場は別の場所である。妻は大きな紙袋を持って部屋を出た。なっちゃんへのプレゼントである。もちろん、その中に私からのキンドレも入っている。私はそれとは別にこっそりと紙封筒を持って行く。妻にも内緒の日記帳である。あとから聞くと<何をコソコソと持ってきたのだろう>とみんな思っていたそうである(笑)。
大人は生ビール、子供はジュースと配られたところで私の挨拶である。「短か目でお願いします(笑)」などと言わずもがなの一言も飛び出す。
「なっちゃん、12才の誕生日おめでとう。月を跨いで遅くなってしまいましたが、これから誕生日のお祝いをしたいと思います。この頃はバスケットボールも一段と腕を上げたように聞いています。話を聞くたびに私の運動神経を受け継いでくれたようで頼もしく思っています(笑)。しばらくすると中学生ということになりますが、バスケでこれだけ頑張れる訳ですから、他のことでも何でも同じように頑張って行けること間違いありません。いつまでも明るく元気ななっちゃんでいてくれることをお願いいたしまして、みなさんで乾杯をしたいと思います。ご唱和お願いいたします。誕生日おめでとう。乾杯!」
私の向かいに娘婿のナオ君が座り、その横にそのお母さんが座る。
ナオ君「いつもながらに話が上手いですよね(笑)」
私「おっ、褒めてくれるねぇ。いつもながらに褒め上手だよねぇ(笑)」
上機嫌で始まった。テーブルの上にはいくつもの料理が並んでいたが、始まるや否やどんどんと料理が運ばれてくる。若いお兄さんが給仕役である。
私「今日のメインは何なの?」
男性「これからお出しします鮎の塩焼きとなります」
私「おお、いいねぇ。冬の牡丹鍋もいいけど、釣りたての鮎なんかは絶品だよね」
男性「ありがとうございます。川魚は苦手という人も中にはいらっしゃいますけど、美味しいですよね」
私「何言っているの、苦手という人もいてもらわなくちゃ困るんだよ。余計に回って来なくなっちゃうんだから(笑)」
男性「なるほど(笑)」
生ビールを2杯飲んだところで聞いてきた。
ナオ君「お父さん、飲み物はどうしますか?」
私「あっ、そうか。冬の牡丹鍋には熱燗が美味かったけど、夏の鮎にもやはり熱燗とはこれ如何に(笑)」
                                 (平成30年作)




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