天文 - ひこばえ
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ひこばえ


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道三の死に美学あり美濃の雪



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「蝮、生きていろっ」
と、闇にむかって叫んだ。
叫びながら、信長は奇妙なことに気がついた。あの日は天文二十二年四月二十日であった。いまは年号こそ変われ、その三年後の、しかもおなじ四月二十日ではないか。
偶然かも知れない。
しかし信長には偶然とも思えず、
(どこまで芸のこまかい男か)
と驚嘆した。蝮は、自分と会った四月二十日を選び、おのれの命日にしたかったのではあるまいか。いやそうに違いない。四月二十日を命日にしておけば道三のあとを弔うべき信長にとって二重に意味のある祥月命日になるのであった。されば信長は生涯道三を忘れぬであろう。
(あの男は、そこまでおれを思っている)
若い信長にとって、この発見は堪えられぬほどの感傷をそそった。

以上は司馬遼太郎「国盗り物語」の中で斎藤道三が死ぬ場面である。
金華山を出たあと、岐阜の市街地に向かった。ブラタモリで紹介していた楽市楽座のあった場所を見に行ったのである。「マックスバリュ岐阜元町店」の辺りだというが、何も見出せないままに戻ることになってしまった。3時半にホテルに入った。岐阜城を真向かいにした「岐阜都ホテル」である。早めに風呂に入り、一寝入りしてすぐに夕食となった。ホテルにある和食の店を選んだ。他の店は混んでいたようだが、その店は空いていた。最後まで我々夫婦だけだったように思う。静かでいい雰囲気だった。コース料理にしたので同じ仲居さんが何度も現われる。自然、話が弾み、気心が知れてくる。
その日の雪のこと。年に二三回しか降らない雪がたまたま降ったことを教えてくれた。
私が俳句を詠んでいることを話すと「先程からお聞きしていて思っていたのですが、本当に言葉を上手に使われる方ですよね」と持ち上げてくる。金華山にうっすらと積もった雪を「美濃の雪」として考えていると言うと「まぁ、なんと美しい言葉でしょう」と驚いてくれる。その言葉を彼女がいなくなったあと、手帳にメモする姿を見て「そういうのは本当に聞き逃さないよね」と混ぜっ返す妻。とても楽しい初日の夕食となった。
                                 (平成30年作)




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痩せ馬の背にも喩へて雪の尾根



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岐阜城といえば永禄10年(1567)の美濃攻めである。信長が斉藤義興の居城だった稲葉山城を攻め取った戦いである。司馬遼太郎「国盗り物語」からその場面を抜き書きしてみよう。

『信長は城を取り巻いて城外に二重三重の鹿垣(ししがき)をつくり、敵の援軍の来襲を防ぎつつ、持久戦に取りかかり、稲葉山城を兵糧攻めにして干し上げようとした。
滞陣十四日目のことだ。
秀吉はその間、配下の野武士を使い、
「本丸への間道はないか」
と、稲葉山周辺の地理を探索させていたが、ある日、一人の猟師をとらえた。堀尾茂助という若者である。(中略)
この茂助が、
「この山麓の一角に達目洞(だちぼくどう)という小さな山襞がございます。そこから崖登りすれば訳なく二ノ丸に登りつけます」
といった。この一言が稲葉山城の運命を変えた。秀吉はこの茂助を道案内とし、新規に抱えた野武士あがりの蜂須賀小六ほか五人を連れて夜陰、崖登りし、二ノ丸に忍び込んで兵糧蔵に放火し、ついで自分の弟(秀長)に指揮させている本隊七百人を呼び入れ、さらに間道を進んで天守閣の石垣に取り付き、陥落の糸口をつくった。
その翌日、竜興は降伏し、信長によって助命され、近江へ逃げた』

人間の運命とは妙なものである。この稲葉山住まいの若い猟師がこのあと秀吉の家来になり、累進して豊臣家の中老職をつとめ遠州浜松十二万石の大名になるのである。そんなことを考えながら雪道を歩き、城を見学してきた。
                                 (平成30年作)




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これしきの雪を恐れて檻の中



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さていよいよ岐阜城である。「ブラタモリ岐阜編」を見て来ておおよその知識は出来ている。
まずは金華山ロープウェー乗り場へと向かった。そこであることを思い出した。
「そういえば工場長が金華山に行ったら何かを買ってきてくれと言っていたなぁ?何だったっけ?」あんまり下らない物だったので、いい加減に聞いていたようで全く思い出せない。メールを入れてみた。
「何を買うと言っていたっけ?」
しばらく待っていたが返答がない。そのうちロープウェーの時間が来てしまった。
当社の工場長も歴史好きである。城やお寺を訪ねては奥さんとあちこち出掛けている。もちろん岐阜城には何度も来ているようで、城の横にある展望レストランからの眺めの素晴らしさやそこで食べる味噌カツの美味しさをしきりと推奨していた。
ロープウェーで上に到着すると目の前に「リス村」があった(写真)。「日本で最初のリス村だ」と番組で紹介していた。特にリスが見たかった訳ではないがタモリが入ってみたのだから入るしかない。チャートの岩盤で出来ているこの山に煙硝倉という火薬の備蓄庫を作るため、平らに削ったのがこの場所だという。中に入って革手袋をもらい手にエサを載せてみたが肝心のリスが見当たらない。番組ではタモリの手の平や回りにあれほどいたリスがほとんど出て来ない。係員が「今日はこの雪ですからねぇ」と申し訳なさそうに言っている。10分ほどいたが、あまり出て来ないので城に向かうことにした。
「この雪じゃあ、リスも寒くて遊ぼうなんて思わないよなぁ……」
リスの種類は「タイワンリス」と書いてあった。寒さに弱いことは容易に想像できる。
                                 (平成30年作)





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霙るる

霙るるや天守に暗き武者溜り



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桶狭間を出たのは8時である。まだ朝食を摂っていない。コンビニで買ったおにぎりを車の中で2つ食べただけである。少し空腹を覚えていた。しかし車はすぐに高速に乗った。次の目的地は犬山城である。岐阜城に行く前に寄らなければならない必見の国宝天守である。
「腹減ったなぁ。どうしようか?」
「私は大丈夫だけど、食べたいのならどこかへ寄る?」
「ここはいい物を食べないとなぁ。旅の初めでいい加減なものを食べたら後悔する。名古屋名物、岐阜名物といったら何だろう?」
「ひつまぶしがいいなぁ」
「おお、ウナギかぁ。いいな。よし、ウナギ屋を探そう」
「ワーイ」
しかし桶狭間から犬山城までは結構な距離である。ちょっとした渋滞もあり、高速を降りた段階で9時半になっていた。城を見学する前にウナギ屋をと思ったが、どこもみな11時か11時半の開店である。
「中途半端な時間になってしまったなぁ。まずは城に行くしかないみたいだなぁ」
「私は全然構わないけど……」
城の駐車場に着き、歩き始めた。雪は止んでいたが、時折霙(みぞれ)まじりに降ったりする。
犬山城の見所は何といっても天守である。二重櫓の上に望楼を載せた典型的な望楼型天守で、高欄とその下にある唐破風が特徴的な意匠となっている。廻り縁への出入口の左右にある花頭窓も美しい。雪のために廻り縁を一回りすることは出来なかったが、木曽川を見下ろし、濃尾平野を一望することは出来たのである(写真)。天守の中に武者走り、武者溜り、武者隠しなるものがあった。この暗くて狭い場所に大勢の武者がひしめき合っていたのだろう。おそらく腹も減っていただろう。自分の腹の虫が鳴くこともあってか、そんな想像をしながら見て回ったのであった。
                                 (平成30年作)




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粉雪

粉雪や所詮人間五十年



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さすがに夜の高速道路は空いていたが目的地の桶狭間まで片道320キロ、到着予想時刻は7時20分、長距離走である。コンビニで飲み物などを買い込んでから走り始めた。そしてすぐに用意しておいたCDを掛けた。

下天は夢かや 幻なるか
所詮 人間五十年
燃えて崩れる本能寺
炎の中に信長は男の最後
それよ何んの言葉も要るものか
噫々 嵐呼ぶよな朝が来る

三波春夫の「信長」である。これを聞きながら尾張、美濃、信長の地を訪ねようというのである。私のサービス精神の現われとも言える。しかし掛けてすぐに文句を言われた。
妻「朝から聞きたくないよ、これ……」
私「えっ、信長だよ。信長を訪ねる旅だから絶対にこれしかないよ」
妻「気持ちは分かるけど、三波春夫だけは勘弁して。お願い……」
私「三波春夫が嫌いなの?」
妻「そう、どうもあの声には付いていけない。まだ浪曲なら浪曲だけの方がいいんだけど、途中でいろいろ入れてくるでしょ。子供の頃から好きじゃなかったのよねぇ、台詞混じりの歌い方が……」
いきなり出鼻を挫かれてしまったが、仕方ない。人には好みというものがあるのだ。無難なところで「中島みゆき」などを聞きながら走って行くことにした。
浜松に入った辺りから雪が舞い始めた。
「おっ、雪だ。天気予報はどうなってるの?こんな所から降っているようじゃ、マズイんじゃない?」
車のライトに照らされてどんどん激しくなっていくのが分かる。買ったチェーンが無駄にならなかったのを喜ぶ反面、雪道という未体験ゾーンに急に不安が募る。周りを走る車のスピードが落ち「ユキ注意」の電光掲示が妙に目に付く。
「チェーンの付け方、チャンと見ておくんだった……」
                                 (平成30年作)




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