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日向 亮司

Author:日向 亮司
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梅雨

里見氏の安房の山々梅雨に入る



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新型コロナウイルスによる緊急事態宣言がようやく解除となり、県外への移動も6月19日以降に可能になった。すぐに走り回ろうというのではないが、どうしても行きたい場所があったので旅館などを当ってみた。妻にメールした。
私「19日からは県を跨ぐのも含め徐々に観光していいというのが指針のようだよ。近場の千葉にでも行って来ようよ」
妻「いいよ」
私「館山にホテル州の崎──風の抄──という良さそうな宿がある。予約お願いします」
しばらくして返信が届いた。
妻「調べたけど、そのホテルは20日も21日も満室」
私「ええっ!」
妻「どこの予約ネットでも空室待ちになっている」
私「すごいなぁ。コロナもへったくれもあったもんじゃないなぁ」
ということで南房総市にある別の宿を予約して20日(土)に出掛けることにした。

渡良瀬遊水地に葦焼きを見に行ったのが3ヵ月前の3月21日(土)である。葦焼きを見て古河市のホテルに泊まり、その翌日に出掛けたのが20キロ離れた結城市である。何があった訳ではない。室町幕府に反抗して散って行った結城一族の墓をお参りしただけである。結城合戦を描いた小説「天下の旗に叛いて」(写真)を読み、その地を訪ねてみたかったのである。その結城合戦で死ぬことを逃れて安房へと向かったのが里見義実であり、そこから始まるのが「南総里見八犬伝」である。結城市から帰ってすぐに訪ねたかったのだが、コロナに阻まれて3ヵ月足止めを食らってしまった。まずは「八犬伝」の冒頭、父である里見季基と義実のやり取りを紹介しておこう。
父と共に3年の籠城に耐え、この日も敵に向かって討死せんと進んで行こうとする義実(19才)である。父が呼び止めて言う。「義実、勇士は元を忘れてはならない。今日を限りと思うことは理があるように見えるが、ここで父子共に討死すれば先祖への不孝というもの。父は節義のために死んでいくが、子は親のために逃れて一命を保つのに何の恥ずることやある。時節を俟って家を起せ。早く逃げ延びよ」
それを素直に聞く義実ではない。「親の必死を横に見て、逃れることなど出来はせぬ。武士の家に生まれて、文武の道を学び、ここで死なずば人に笑われ、先祖を辱めることになりまする」
季基曰く「そもそも我が祖は新田義貞朝臣に従い、足利持氏公は譜代の主君にあらず」などと一族の拠って立つところを説明し「ここで死ぬのは我のみにて足れり。ただ死するのみを武士とは言わぬ、学問もまた甲斐なし。斯くまで言って分からぬとあれば親と思うな、子でもない」と言い放つ。
道理を責められた義実は涙を流すばかり。敵軍が迫る中を郎党二人に守られながら西へと落ちて行く。その後、安房に入国し平定し、安房里見氏を起こすことになる。
                                 (令和2年作)




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日傘

富士見坂日傘の一歩また一歩



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長女「お巡りさんは何だって?」
私「お巡りは最初、堂本君に謝れという」
長女「えっ、なんで?」
私「なんでだったかどうかは忘れたが、金持ちに依怙贔屓の時代だったのかぁ。しかし、やはり金持ちが悪いということになる。金持ちが謝ったかどうかは忘れたが、最終的には自分の犬ばかり可愛がって人の犬を思いやらない心は醜いということになったんだよ。やはり心だよ、心。一件落着してまた力を合わせて大八車を押して行ったという話だよ」
長女「子犬はどうなったんだろう?」
私「……」
妻「何でまた、そんな話を思い出したの?」
私「だって、引越しだからだよ」
妻「引越しじゃないよ。引越しはとっくに終わって今日はお披露目会だよ」
私「同じようなもんだよ」
長女「そういえばこれから行く所に坂があるんだ。家のすぐ近くなんだけど……」
私「おお、堂本さんの引越しと同じだなぁ(笑)」
長女「その坂に俳句が書いてあった。坂の名前にもなっていた」
私「どんな俳句?」
長女「詳しくは覚えてないけど仕事帰りの旦那さんを思いやるような俳句だったと思う。これから通るから見てみて」
私「そんな思いを書くのは俳句じゃなくて和歌なんじゃないか?」
長女「えっ、どうだろ」
私「俳句は五七五、和歌は五七五七七だよ」
長女「どっちかなぁ。長かったかなぁ、短かったかなぁ(笑)」

写真の和歌が掲げられていて坂の名前にもなっていた。「妻恋坂」。名前を変えたのは最近のことらしい。念のために掲げておく。
『お仕事に疲れて帰る道すがら愛しき妻に急ぐこの坂』

飲み過ぎて昼まで寝ていた日曜日。ぼんやりと「坂道」のことを考えていた。
<いつ読んだっけかなぁ……>
磯子図書館か金沢図書館か、どちらかで読んだような気がする。もう20年以上も前のことである。堂本君と金持ちの主人はどんな言い争いをしたのだろう、お巡りさんのジャッジは正しかったのかどうか、子犬はどうなったのか、質問されても答えようがないほどに忘れていた。もう一度読んでみたいが頭が痛くて図書館に行く気にもなれない。
                                 (令和2年作)




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片蔭

片蔭に犬が猛獣とも見える



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長女が大和市に家を建てたので見に行くことになった。土曜日に昼食を兼ねてということだったので車で迎えに来てもらった。一杯飲むことになるので帰りも送ってもらうことになる。真っ直ぐに向かえば40分ほどだというが、あちこちで買い物などするので2時間コースとなってしまった。車の中には三姉妹もいる。
私「中学校の国語の教科書に『今日は堂本さんのお引越しです』っていうのがあったなぁ」
長女「何それ、聞いたことない」
妻「知らない」
私「えっ、お前も知らないの?」
妻「全然聞いたこともない」
私「壺井栄だよ。『坂道』っていう小説」
長女「壺井栄って?」
妻「『二十四の瞳』を書いた人だよ。それがどうしたの?」
私「これがどういう訳か忘れられないんだよ。50年経った今も忘れられないでいる。戦後の貧しい家に両親を亡くした堂本君がやって来る。1年ほどして堂本君が近くに引越しをすることになった。下宿か何かは分からないけど、出て行くことになったんだよ。今と違って車がある訳じゃないから大八車に家財道具を載せて押していくことになる」
全員「フーン」
私「一緒に暮らしていた子供たちが手伝うことになる。大八車を押して行く。堂本君が可愛がっていた子犬も一緒だ。坂道に差し掛かる。みんなで力を合わせて登り始める。と、その時、大きな家の前に差し掛かった時に、子犬が飛び出してその家の大きな犬に噛まれてしまうんだよ。ガブッ!」
長女「ヒャ~」
私「すぐに助けたいんだけど、大八車なので手を放すことが出来ない。放せば坂を転げ落ちてしまうことになる。堂本君は叫ぶしかない。大声で助けを求めたんだ」
全員「……」
私「大きな家の中から主人が出てきて大声で怒鳴る。『この乞食ども、何を文句言っているんだ』って具合だ」
長女「乞食って今は使わないよ。禁止用語だよ」
私「いやいや、今はそうでもあの頃は普通に使っていたはずだよ」
長女「なつ、意味、分かる?」
なっちゃん「使わないけど、なんとなく分かる」
私「貧乏人ってことだよ。物乞いかなぁ」
妻「まあ、それはいいから先はどうなったの?」
私「金持ちの男にとって小汚い格好をして大八車を押して文句を言っている奴等なんかは相手じゃない。犬が噛まれようと何だろうと関係ない。そうこうしている内にお巡りがやってくる。どっちがいいか悪いか、判定が始まる」
長女「へ~」
                                 (令和2年作)




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薫風

薫風や高さ揃へし卓と椅子



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娘「明日、脚を持って行きたいんだけど」
私「大丈夫だよ。塗装もあるので作るのに半日は欲しいって言ってた」
娘「半日?もっと掛かると思ってた。そんなに急がなくても大丈夫だよ(汗)。何時頃に行けばいい?」
私「何時でもいいよ」
娘「じゃ、子供たちの学校が終わってから行くね。こっちを出るの、11時頃かな」
私「オッケー、待ってます」

11時半にやってきた。なっちゃん、みやちゃん、さわちゃん3姉妹も到着である。設計の担当者が現物を確認し、娘に嵩上げの構造を説明している。「はい、はい」と頷いていた娘だったが、あとから聞くと全く分かっていなかったそうである。昼を食べに行ったレストランでの会話である。
娘「行ったらすぐに図面が出されるんだもの。ビックリだよ(笑)」
私「俺もどういう風に作るのか分からないけど、彼に任せておけば間違いないよ(笑)」
娘「天板も見ないで作っちゃうんだからすごいよね」
私「どんなのが出来るか、オレも楽しみだよ」
娘「明日には出来るって言ってたけど、じゃあ、また連絡してから来るね」
3姉妹の食欲に驚きながらも「これが猫背じゃ可哀相だな(笑)」「そうでしょ(笑)」

会社に戻ると早くも工程を流れていた。パンチ・レーザー複合機でカットし、曲げて溶接している。部材が4つある。写真に収めて娘に送った。
娘「4つも作る予定だった?2つは試作?」
私「2つ1組だって。オレには全く思いも付かない構造になっている」
娘「すごいね。明日、取り付け方をしっかり教わらなくちゃ。皆様によろしく伝えてください」
ということで翌日またまた4人がやってきた。説明を受けた娘。
娘「すごいよ、これ。考えてもいなかった構造だよ。プロの仕事って感じ。おそらく私と同じような悩みを持っている人、世の中に多いと思う。これって仕事として成り立つんじゃない?」
私「1ヵ月1億やっている工場だよ。テーブルの手直しをやって、やっていける訳ないじゃん(笑)」
娘「そうか!それもそうだね(笑)」
私「今回4センチ上げたけど、みんなの身長が伸びてまた猫背問題が発生した時は相談してください。データが出来てるんで、脚の現物は不要です(笑)」
持ち帰ったその日に組み立てて完成し、見事に使い易い椅子テーブルに変わったことを報告してきた(写真)。
娘「今更ながらおーちゃんの会社が凄い会社だったことを知りました。本当にありがとう(笑)」
                                 (令和2年作)




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豆飯

豆飯や育ち盛りの三姉妹



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娘とメールでやり取りをしていた。
娘「あっ!おーちゃん!別件なんだけど、ダイニング用に買った椅子が床から座面までの高さが高すぎて使いにくいから、おーちゃんの会社で脚を切ってもらえないかな~。素材がスチールなので自分では切れないんだよ(汗)」
私「工賃、高いよ(笑)。写真を送ってみて」
すぐに写真が送られてきた。
娘「こういう椅子です」
私「下のアジャスターは簡単に外れるの?拡大して送ってみて」
娘「アジャスターってこれのこと?簡単には取れそうもないけど……」
私「そうだよ。このプラスチックみたいなものをまた付けなくちゃならないんだから。椅子の脚を切るよりテーブルの高さを上げた方がいいんじゃない?」
娘「テーブルの脚がさ……こういう脚なわけ」
テーブルの写真も送られてきた。
私「簡単そうに見えるけど」
娘「えっ!高さを上げる方が簡単なの?」
私「何センチ上げたいの?」
娘「5センチくらいかな」
私「どんな構造かは知らないけど、見たら同じ物を作る自信あり」
娘「そりゃ、すごい!!!!!実物が明日届くから、来たらまた細かいところを見て報告する!」
私「猫背にならないようにね(笑)」
娘「すごいよ~!もっと早く相談すれば良かった(笑)」
私「毎日、テーブルや台を作っている会社だよ。ダイソー、マツキヨ、成城石井、ありとあらゆるお店が当社のお客様だよ(笑)」

テーブルの天板の裏側や脚の写真が送られて来た。翌日のやり取りである。
娘「脚はこんな仕様になってます」
私「今、設計に見てもらいました。脚があれば希望の高さまで上げますとのこと。来てすぐ作るという訳にはいかないので、一旦預かりたいとのこと」
娘「ありがとう!脚だけ持っていけばいい?天板は大きくて重くて、持って行くの大変そうなんだけど」
私「脚だけで大丈夫だって。念のため、天板の裏に開いてある穴の拡大写真だけは欲しいみたい」
                                 (令和2年作)




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